自分たちで作るという選択 ─ 未来を設計できる組織へ

2026.08.18

世界各国・地域から集まったPayPayグループのエンジニアたちが、技術へのこだわりや挑戦を語るTech Talksシリーズ。今回取り上げるのは、PayPayカード システム本部が挑んだ審査システム刷新プロジェクトです。自分たちで作るという選択から始まったプロジェクト。長きにわたって運用されてきた審査システムを見直し、単なるシステム刷新ではなく、自分たちで未来を設計できる組織を目指した挑戦です。背景にある設計思想や意思決定について、システム本部長の塩田さんと、プロジェクト推進者の岡本さんに伺いました。

塩田 康隆(しおた やすたか)

テクノロジー統括本部 システム本部長

ISPサービスの開発・運用を経て、株式会社ネットラストで決済サービスの開発・運用を担当。2013年にヤフー株式会社(現・LINEヤフー株式会社)へ転籍。サービスマネージャーやカンパニーセキュリティ責任者を務める。ワイジェイカード(現PayPayカード)や、ジャパンネット銀行(現PayPay銀行)で、セキュリティ基盤の構築や勘定系・業務系システムの開発・運用に携わる。2024年よりPayPayカード システム本部長。「ネット屋の金融」実現を目指し、システム内製化を推進。事業成長を支える技術基盤の構築に取り組んでいる。

岡本 仁(おかもと じん)

テクノロジー統括本部システム本部 審査債権開発部審査開発グループ

業務システムを中心に、クレジットカード審査システムなどのバックエンド開発に従事。JavaやAWSを用いたシステム開発に加え、システム全体設計や技術選定、API・データベース設計など、アーキテクチャ領域を幅広く担当。より大きなスケールでのシステム開発に挑戦したいという思いから、2024年11月にPayPayカードへ入社。現在は審査システム刷新プロジェクトに携わり、「審査とは何か」という本質から設計を見直し、新しいアーキテクチャの設計・実装を推進している。

システム本部が目指すもの

塩田:
システム本部が担当しているのは、審査、与信、債権管理、カスタマーサポート、データ分析、社内ITなど、カード事業を支えるシステム領域です。直接ユーザーと接するサービスというよりも、事業運営の根幹を支える基盤そのものを担っています。

私たちの役割は、事業成長を技術で支え続けることです。事業が成長すれば、それを支えるシステムも変わり続けなければいけません。新しいサービスを届け続けるためには、その土台となるシステムも進化し続ける必要があります。しかし、そのミッションを果たす上での大きな障壁がありました。PayPayカードには、私の入社前から長年使い続けてきたシステムがいくつかあります。もちろん、それらのシステムがあったからこそ、今のPayPayカードがあります。

そして、事業が次の成長フェーズへ進む中で、システムも同じスピードで進化し続ける必要がありました。しかし、ブラックボックス化したシステムでは、「なぜこの仕様になっているのか」「どこまで影響があるのか」を理解するところから始めなければなりません。だから私たちは、技術的主導権を取り戻すプロジェクトを始めました。対象となるシステムは1つではありません。それらを順番に内製化していく方針を立て、その1つとして取り組んだのが「審査システム」でした。カード会社にとって審査システムは、カード発行の起点となる基幹システムです。今後の事業成長を支え続けるためにも、避けては通れない領域でした。

業務を理解して要件を整理できるメンバーがいる。それをシステムとして実装できるエンジニアがいる。このメンバーなら、自分たちの手で実現できる。そう確信し、このプロジェクトを始動しました。

岡本:
最初にこの話を聞いた時は、正直「かなり大変な案件だな」と思いました(笑)。でも、「できない」とは思いませんでした。ここを変えられたら、自分たちの力で改善し続けられる未来がつくれる。その期待の方が大きかったですね。

長年使い続けた審査システム刷新の背景

岡本:
プロジェクトが始まって、最初に取り組んだのは、既存の審査システムを理解することでした。新しいシステムを考える前に、まず今のシステムがどう動いているのかを知らなければ設計はできません。そこで、システム全体を1つひとつ見ていきました。最初に感じたのは、「思っていた以上に多くのシステムがつながっている」ということでした。

審査システムだけで処理が完結しているわけではありません。申込情報の受付から審査、結果の連携まで、多くのシステムが関わっています。1つ変更するだけでも、影響範囲を確認し、関係するチームと調整しなければならない。改善したくても、すぐには動けない。そんな構造でした。

システム全体を理解していく中で、もう1つ考え始めたことがあります。それは、「どういう道筋で新しいシステムへ移行していくか」ということでした。長年、中枢を担ってきたシステムです。すべてを一度に置き換えることは現実的ではありません。まずは既存システムと共存しながら、少しずつ新しい構造へ移行できる方法を考えました。技術選定も、その考え方から始めています。KafkaやgRPCなども含めて検討しましたが、私たちが優先したのは、新しい技術を採用することではありませんでした。既存システムと無理なく連携できること。そして、段階的に移行できること。その判断から、REST APIを採用しています。

Before & After図

私たちが目指した構成がこちらです。それぞれのサービスが役割を持ちながら連携し、必要な部分だけを改善できる構造です。将来、新しい機能を追加するときも、影響範囲を最小限に抑えながら開発を進められる。そんな基盤を目指しました。

「審査とは何か」の本質を追求する

岡本:
システム全体を見直していく中で、時間をかけて考えたのが、「そもそも、審査とは何なんだろう。」という問いです。最初は、新しい審査システムをどう作るかを考えていましたが、システムを設計する前に、まず「何を担うシステムなのか」を明確にする必要がありました。

カード申し込み時の初期与信、既存ユーザーの途上与信、更新カードや改姓・改名時の審査など、一口に「審査」と言っても、その内容はさまざまでした。審査に関わる業務を1つずつ見直していくと、最初は全部審査という1つの言葉で考えていたものが、実はそれぞれ役割が違うことに気付きました。同じ審査と呼んでいても、それぞれが担う役割や責任はまったく異なっていました。

見直しを進める中で、ある違和感がありました。利用可能枠の増額に関わる処理が、別のシステムにも存在していたんです。「どうして同じような役割を持つ機能が二つあるんだろう。」そこから、もう一度システム全体を見直しました。調べていくと、昔は必要だった仕組みが、そのまま残っているものもありました。一方で、本来は別のシステムが担うべき役割が十分に切り分けられていない部分もありました。

その時に思ったんです。システムを分ける前に、責任を分けなければいけない。そう考えるようになってから、設計が一気につながりました。審査システムは、審査フローを管理する。スコアリングはスコアリング。外部信用機関との連携は連携。それぞれが1つの責任だけを持つ。そう考えると、システム全体も自然とシンプルになっていきました。

技術選定も、その考え方の延長でした。私たちは、新しい技術を採用したかったわけではありません。大切にしたのは、「この責任を、一番自然に実現できるか。」ということです。だから技術は、設計思想の結果として選ばれていきました。

塩田:
私は、この議論が今回のプロジェクトの中で一番印象に残っています。最初は「審査システムを刷新する」という話でした。でも途中から、「審査とは何か。」を考える議論に変わっていった。その結果として責任範囲が整理され、システムの形も決まっていきました。だから今回私たちが作ったのは、新しいシステムだけではありません。これから先も改善を続けられる考え方だったと思っています。

制約の中で選び抜いたもの

塩田:
「審査とは何か。」という考え方が整理できたことで、ようやく開発の全体像が見えてきました。一方で、設計思想が固まったからといって、そのすべてを実現できるわけではありません。もともと、このプロジェクトは2年ほどかけて進める想定でした。しかし、途中で「1年でリリースする」という判断をしました。だからこそ、一番大切だったのは、何を作るかではなく、何を今やるべきかを決めることでした。

岡本:
現場でも、同じことを考えていました。「できること」を増やすのではなく、「今、本当に必要なものは何か。」それを判断基準に、一つずつ優先順位を決めていきました。整理した責任範囲があったからこそ、「これは今やるべきか」「これは別の仕組みが担うべきか」という議論ができました。設計思想が、そのまま開発の判断基準になっていました。「これは別の仕組みが担うべきではないか。」そういう議論を何度も繰り返しました。

塩田:
もう1つ、私たちが大切にしたのは、既存システムをそのまま作り直さないことでした。そのまま作り直した方が比較もしやすく、短期的には効率も良かったと思います。でも、それではブラックボックスもそのまま引き継ぐことになります。今回目指したのは、この先も改善し続けられる基盤です。だから、過去の仕様をそのまま再現するのではなく、1つひとつ「本当に必要なのか」を問い直しました。

岡本:
最後は、旧システムと新システムを並行して動かしながら、1つずつ結果を比較していきました。差異が見つかるたびに、企画チームと一緒に仕様を確認し、「なぜこの結果になるのか」を何度も議論しました。

ブラックボックスになっていた部分も多く、想像以上に時間はかかりました。でも、その時間があったからこそ、1つひとつ納得しながら前へ進めたと思っています。もちろん、スケジュールは決して楽ではありませんでした。それでも、「できない」と言う人は一人もいませんでした。

要件を整理する人。設計する人。開発する人。テストを進める人。みんなが同じ方向を向いていました。このメンバーなら最後までやり切れる。それは最後まで変わらなかったですね。

塩田:
今回のリリースは、1つの区切りではあります。でも、私たちにとってゴールではありません。ようやく、自分たちの手で改善を続けられるスタートラインに立てた。そう感じています。

未来を設計できる組織へ

塩田:
今回のプロジェクトで作ったのは、1つの審査システムではなく、この先も、自分たちの手で改善し続けられる土台です。企画側からは、「24時間365日、いつでも審査できる世界を実現したい」という声もあります。

今は申し込みや利用可能枠の増額など、それぞれのタイミングで審査を行っていますが、これから先は、ユーザー一人ひとりに合わせて、もっと柔軟でリアルタイムな判断ができるようになるかもしれません。今回作った基盤は、その未来へ進むための第一歩だと思っています。

岡本:
私も、今回のリリースは1つの通過点に過ぎないと思っています。新しい基盤ができたことで、ようやく次の挑戦ができるようになりました。今でも審査の多くは自動化されていますが、まだ人が判断している領域もあります。「この判断は、本当に人でなければできないのか。」そういう問いを、これからも1つずつ見直していきたいと思っています。

今回、審査システムはPayPayカード共通のAWS基盤の上に構築しました。まだ、この基盤へ移行できていないシステムもあります。今回のプロジェクトで得た考え方を、他のシステムにも広げていきたいと思っています。

塩田:
今、開発の現場はAIによって大きく変わり始めています。メンバーは常に新しいツールを試しながら、開発スタイルをアップデートし続けていました。

これからも変化は速いでしょう。だからこそ、既存の手法にとらわれず、新しい技術を取り入れ、自分たちの手で未来を形にしていく。そんな組織であり続けたいですね。

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