個社最適を超えて — プロダクト責任者4人が語る「1つのPayPay」への挑戦

2026.09.24

PayPayグループ各社のリーダーの人柄や考え方を紹介する「リーダーインタビュー」。今回は「金融の再定義」を掲げるPayPayグループのプロダクト責任者4人が登場。PayPay、PayPay銀行、PayPay証券、PayPayカード。それぞれ異なる歴史、システム、組織を持つ4社が、いま目指しているのは、ユーザーから見れば会社の違いを意識することのない「1つのPayPay」です。 しかし、その実現は単にUIを揃えたり、サービス間に導線を作ったりするだけでは成しえません。ID、データ、システム、SLA、開発プロセス。そして、会社ごとに異なる優先順位や組織の壁。これまで個別に成長してきた巨大な金融サービス群をどうつなぎ、モダナイズし、ユーザーにとって「1つの体験」へ変えていくのか。4人の対話から見えてきたのは、完成された姿ではなく、まさにいま進行しているPayPayグループのエンジニアリング変革でした。

山本 啓介(aka KSK)(やまもと けいすけ)

PayPay株式会社 Product統括本部 Payment & Technology プラットフォーム本部長

決済領域を中心に大規模サービスの開発に携わり、2018年にPayPay株式会社へ入社。創業時から開発組織をリードし、現在はプラットフォーム基盤の開発を統括。

平川 宗則(aka Mune)(ひらかわ むねのり)

PayPay銀行株式会社 プロダクト統括本部長

決済・ウォレット領域の開発に携わった後、2018年にPayPay株式会社へ入社。2022年にはPayPay IndiaのMDとして拠点の立ち上げを統括し、現在はPayPay銀行株式会社にてプロダクト開発を統括。

作井 吉満(aka Saku)(さくい よしみつ)

PayPay証券 執行役員 CTO 兼 プロダクト本部長

新規サービスやアプリケーション開発に携わった後、2018年にPayPay株式会社へ入社。現在はPayPay証券にて、技術・プロダクトの刷新と組織づくりを推進。

信太 宏之(しだ ひろゆき)

PayPayカード 取締役 兼 専務執行役員 CTO

決済サービスの開発に携わった後、PayPayカード株式会社へ出向。現在はPayPayカード株式会社の取締役兼CTOとして、技術戦略と開発組織を統括。

シームレスな体験を、さらに深く「1つの体験」へ

KSK:
私たちが目指すべきは、ユーザーの視点に立ったときの真の「ワンプロダクト(1つの体験)」です。これまでもPayPayを起点に、決済から銀行、証券、カードまで、点と点を線でつなぐようにシームレスな連携を進めてきました。ただ、裏側で私たちが別々の会社として動いていることなんて、ユーザーには一切意識させたくないわけです。

だからこそ、すでに組み上がっている連携をさらに太い線にし、アカウント開設やログインなどの導線を含め、PayPay IDが1つあればグループ内のあらゆるサービスをさらに摩擦なく、自然に使いこなせる状態を追求し続けていきたいと考えています。

Saku:
証券では、その「体験の差」が分かりやすく出てしまっている部分がありました。もともと先行して開発していた証券独自のネイティブアプリと、後から提供を開始したPayPay内のミニアプリという2つの接点があるため、一部で情報が十分に連動しきれていなかったり、ユーザーを迷わせてしまったりする課題があったからです。

また機能面では、PayPay銀行やPayPayマネーと連携することで、わざわざ証券口座にお金を振り込まなくても直接買い付けができるシームレスな仕組みはすでに実現しています。ただ、たとえばPayPay銀行を登録していて直接買い付けができる状態になっているユーザーから、「どうやって証券口座に入金すればいいですか?」というお問い合わせをいただくことがあります。便利な機能として裏側はつながっていても、その体験が直感的に届いていなければ意味がありません。

ネイティブアプリとミニアプリのどちらを使うユーザーにとってもシームレスに資産状況が把握できる状態を整えるとともに、機能の連携にとどまらず、ユーザーが一切迷わずに直感的に使いこなせるガイドや導線設計へと、UXをさらに高めていきたいですね。

信太:
カード事業でも、会員数が1,800万枚(2026年7月時点)を超え、ユーザー層が急激に多様化しています。これまでは「点」としての決済利便性を高めてきましたが、これからは「ワンプロダクト」として、一人ひとりのライフスタイルに寄り添うフェーズに入っています。

カードが持つ情報だけでユーザー一人ひとりに合ったご提案や情報の出し分けをやろうとするのではなく、銀行、証券、保険など、グループ全体のデータや金融接点が束ねられて初めて、ユーザーの本当の課題を解決するパーソナライズが可能になるんだろうと感じています。

Mune:
銀行も、PayPayらしい直感的なUIを取り入れることで、より身近に使っていただけるサービスへと進化してきました。点と点をつなぐ連携は進んできましたが、ユーザーから見たときに「完全に1つのプロダクト」に見えるかというと、まだ突き詰められる余地があります。

システムが大規模になるほど、「バッチ処理だから明日反映になる」「既存システムの構造上こうなっている」といった事業者側の事情が出がちですが、ユーザーには関係ありません。既存の制約を言い訳にするのではなく、テクノロジーの力でわずかな摩擦も取り除き、より快適な「ワンプロダクト」の体験を実現していくことこそが、エンジニアリングの本質だと思っています。

「共通化すればいい」ほど単純ではない

KSK:
「1つの体験」を作るためには、表面のUI/UXだけではなく、その裏側にあるアーキテクチャから変えていかなければいけません。これまでは各社がそれぞれのシステムを個社最適してきました。今後は、グループで共通して使えるシステムやプラットフォームを作っていく必要があります。

ただ、「全部同じテクノロジーにすればいい」というほど単純ではありません。どこか一社の技術へ極端に寄せても、他社と組み合わせられなくなる。だからまず、それぞれの会社に残っているレガシーな部分をモダナイズして、Technology Stackを一定の水準まで引き上げる。その上で、その中からグループとしてベストなものを選び、共通プラットフォームへ持っていくというステップを踏んでいます。

そして、共通化すると別の難しさも生まれます。個別のシステムなら、その会社の要件だけ満たせばいい。でも共通プラットフォームになれば、各社の複雑な要件をすべて満たさなければいけない。当然、求められるReliabilityやSLA(サービスレベル合意)も格段に高くなります。ただ逆に言えば、そこで高水準なSLAを実現できれば、その品質をグループ全体へ展開できる。私たちが目指しているのは、単なるアプリ統合ではなく、そういうレベルでのプラットフォーム エンジニアリングなんです。

Mune:これはテクノロジーだけの話でもありません。もともと別々の会社なので、制度も歴史も文化も、ものづくりのやり方も違います。だからプラットフォームだけ作って「今日から一緒に使ってください」と言ってもうまくいかない。金融機関として必須となる内部監査や各種統制も含めて、お互いのドメインや制約を理解し、共通化できるところを丁寧に探っていく必要があります。

そのために四半期に一度、各社のプロダクト責任者が集まる「グループプロダクトミーティング」を続けています。相互理解を深め横連携を密にしながら、自分たち自身が「1つのグループとしてものづくりをしている」と思えなければ、ユーザーに「1つの体験」は届けられないと思っています。

短期の売上と、未来のプラットフォーム。どちらを優先するのか

KSK:
例えば「ユーザーにグループのサービスを横断して使ってもらうクロスユースをもっと広げたい」という話は各社で出ます。でも、いざ現場でプライオリティーを決めようとすると、「今すぐ売上や数字につながる案件」が上に来てしまうことがあります。ID連携や共通基盤の開発は、単体で見ればすぐに売上が立つものではありません。でも、本当にグループとしてクロスユースを増やしたいのであれば、その基盤を作らないと何も始まらない。短期的な数字の追求だけでなく、「将来のユーザー体験を作るために何が必要か」という視点で優先度を決める文化を作らなければいけません。

Saku:
証券でも全く同じジレンマがあります。クロスユースを増やしたいと言いながら、ID連携やアカウント共通化のプライオリティーが低ければ、本当の意味では進みません。「証券にとって今何が一番売上になるか」という個社最適の視点ではなく、「PayPayグループとして何が必要なのか」という全社最適な判断が必要です。プラットフォームやIDのような共通基盤への投資を、個社ではなくグループ全体の投資として捉えられるかは、かなり重要な転換点だと思っています。

組織図ではなく、プロダクトを中心にチームをつくる

KSK:
「1つのPayPay」を作るというのは、システムのアーキテクチャを綺麗にするだけの話ではありません。それを実現するための組織の動かし方(Operating Model)そのものをどう変えるかという話でもあります。

グループ横断の取り組みをやるからといって、全部を統括する新しい専任組織を作ればいいとは思っていません。メンバーを元の会社から引き抜いて専任チームを作るのではなく、カードのメンバーはカード、銀行のメンバーは銀行、証券のメンバーは証券に所属したままでいいんです。

解くべき課題や目指すプロダクトが同じなら、会社の壁を越えて1つのProject Teamとして集まればいい。「今回はカードがリードする」「次は銀行がリードする」という形でもいい。会社の組織図という単位ではなく、プロダクトや課題を中心にチームができる。所属を残したまま1つのチームとして柔軟に進めるこのOperating Modelこそが、PayPayグループらしくて一番自然で強いやり方だと思っています。

信太:
そのためには、プロダクト側だけではなくビジネス側も全く同じ方向を向く必要があります。各社のKPIや売上だけを見ていたら、どうしても個社最適の優先順位になってしまう。「PayPayカードとしてどうするか」ではなく、「PayPayグループとしてユーザーにどういう価値を届けるか」。ビジネス側も含めて意思決定の基準そのものをグループ全体視点へ変えていく必要があります。

良いプロダクトは「ユーザーをイライラさせない」

KSK:
私の良いプロダクトの定義はシンプルで、「ユーザーをイライラさせないこと」です。まず速い。画面表示も、決済も速い。そして安定していて、UIが直感的で分かりやすい。世の中の金融サービスや銀行アプリは、未だにバッチ処理前提で画面遷移も分かりづらいものが多くあります。 

でもユーザーからしたら、「金融だから明日反映されます」は関係ありません。決済したらすぐ見える、お金を動かしたらすぐ分かる。PayPayが決済やチャージのリアルタイム性でこだわってきたスピードと高いSLAを、グループ全体へ広げていきたいと思っています。

Saku:
証券で目指しているのは、「気づいたら使っている」くらい自然なプロダクトです。投資ってどうしても「難しい」「怖い」と身構えてしまいがちですが、PayPayの決済で得たポイントを使ってポイント運用を試し、その延長で自然に実際の投資や資産運用へステップアップしていく。ユーザーに使っている感覚を意識させないほど自然な体験を作りたいですね。

そして、それを支える現場のものづくりも大きく変わりました。以前は外部ベンダー主体の外注スタイルの開発もありましたが、現在は完全な社員主体の内製化へシフトしています。単に仕様を決めてコードを書くだけではありません。自分たちでBuildし、Deployし、Production(本番環境)をモニタリングして、問題があれば自分たちで速やかに直して改善する。

いわゆる「You build it, You run it」の思想で、プロダクトのLifecycle全体に対してProductionまで責任を持つ感覚が身についてきました。同時に、UI/UXの触感から画面上の文言一つに至るまで、自分自身が触って納得できるところまで泥臭く突き詰める職人意識も持ち続けたいと思っています。

Mune:
銀行のものづくりとして強調していきたいのは、「スピードとクオリティ(Reliability / Security / Trust)はトレードオフにしない」ということです。PayPayらしいスピード感で素早く価値を届けることは必須ですが、ユーザーのお金を預かる以上、セキュリティや信頼性は落とせない絶対条件です。

だからといって「品質を守るためには遅くても仕方ない」とするのは言い訳に過ぎません。スピードとクオリティを高いレベルで両立させるために、 アーキテクチャを刷新し、オートメーションを徹底し、ものづくりそのものを進化させる。それこそが金融のTechnology Companyとしてのエンジニアリングの魅せ所だと思っています。

「決める」こともEngineering Culture

KSK:
私は昔から、大人数のミーティングが好きじゃないんです(笑)。自分のチームでも、自分を含めて5人以上になるようなミーティングは基本的に避けています。参加者が増えるほど、「一回持ち帰ります」が増えて決断が躊躇されるからです。

もちろん情報が足りなければ持ち帰る必要がありますが、単に決断を先送りするくらいなら、その場にいる少人数の責任者がその場でちゃんと決断して、まず動かした方がいい。会社が大きくなっても大企業病に陥らず、スタートアップのような機動力と意思決定スピードは維持し続けたいですね。

信太:
PayPayグループに来て一番驚いたのは、「現状に満足しない」という文化の強さです。以前なら「ここまでできれば十分」としていた妥協ポイントでも、「もっと良くできるはずだ」と妥協せずに改善を回し続ける。Technologyも、プロダクトも、Development Processも進化させ続ける。私が大切にしているのは、「変わり続けることが変わらない」という姿勢です。

KSK:
ただ、組織が大きくなると、どうしても少しずつ「慣れ」や大企業病が出てくるリスクがあります。判断に迷ったときや、目の前の業務に追われているとき、無意識のうちに「社内の都合」や「自分たちのペース」を優先してしまう瞬間が出てくるかもしれない。もちろん、メリハリをつけて休むときは休むべきですし、無理な働き方を推奨したいわけではありません。ただ、私たちが判断の軸として最初に考えるべきなのは、いつだって「今、ユーザーが困っているのか」「ユーザーに取って一番良い選択は何か」ということなんです。User Firstを掲げる以上、プロダクトのプライオリティーでも日々の運用でも、最終的にはそこへ立ち返らなければならない。組織が大きくなっても、このオーナーシップとユーザー視点をチーム全体でどう維持し続けるかは、これからの大きなチャレンジだと思っています。

AIを「効率化」ではなく、プロダクトそのものへ

信太:
AIについても、次のフェーズに入っていくと思っています。現在は生成AIを社内業務の効率化に使うケースが多いですが、私たちが目指したいのは、その先にある「AI-based プロダクト」です。今までは、「この条件に当てはまるユーザーセグメントにはこのキャンペーン」という一律のアプローチでした。でも、同じ年代でも収入も資産も家族構成もライフステージも違います。本来、その人にとって最適な金融体験は一人ひとり違うはずです。

決済、預金、投資、カード利用、借り入れなど、PayPayグループにはユーザーのお金に関する多様な接点とデータが集まっています。それらが「1つのPayPay」としてつながっていけば、AIを使ってOne-to-Oneで最適な価値やアドバイスを自動提供できるようになる。単に社内作業を効率化するだけでなく、AIによって金融プロダクトそのものを根本から変えていく。そこが私たちの次のチャレンジです。

KSK:
Technology Companyというと、自分たちでAIやDatabaseエンジンそのものをゼロから開発する会社だと思われるかもしれません。でも、私たちの考えは少し違います。Technologyを作ることそのものではなく、「何を実現したいのか」から逆算して、一番適したTechnologyを選び使いこなせること。最新だから採用するのではなく、課題を解くために使う。既存の仕組みやシステムの都合でできないなら、技術の力でどう突破するかを考える。それこそが、私たちの考えるTechnology Companyのあり方です。

「1つのPayPay」へはまだまだ道半ば。挑戦はつづく

Mune:
銀行はまさに変革の真っ只中です。以前のようなベンダー依存のものづくりから脱却し、まずはPayPayグループが大切にしているユーザー起点のものづくり、内製化、スピードを自分たちの標準にしていきたい。その上で、「テクノロジーでシステム都合の壁を突破した」という銀行発のベストプラクティスを、逆にグループ全体へ共有・発信できるような強い組織を作っていきたいですね。

Saku:
証券は内製化という意味では、一つの区切りまで来ました。ここからはその力を使ってプロダクトそのものの品質をもっと上げていくフェーズです。「You build it, You run it」の精神でプロダクトに向き合い、細部までクラフトマンシップを宿らせる。10年、20年、30年と長期で資産運用を続ける中で、ユーザーが迷わず安心して使い続けられるプロダクトを作っていきたいです。

信太:
Technologyはこれからも変容し続けます。だからこそ、「新しいTechnologyを使って、ユーザーへどんな新しい価値を届けられるか」を自ら考え、提案できる仲間を増やしていきたい。自分たちで考え、自分たちで変わり続けられる組織でありたいと思っています。

KSK:
すでにグループ間連携は進めていますが、正直、「1つのPayPay」という理想の姿から見れば、現在はまだほんの序章に過ぎません。システムも違う、Technology Stackも違う、会社ごとの優先度合いの葛藤もあります。だからこそ、これから自分たちの手でさらに変えていく。各社のシステムをモダナイズし、共通プラットフォームを作り、会社を越えてチームを作る。その先でようやく、ユーザーが会社の違いを意識しなくてもお金の体験が自然につながる状態にたどり着けます。私たちが挑むべき伸びしろは、まだ山ほどあります。

組織も変わる、Technologyも変わる、サービスも増えていく。それでも判断に迷ったときに立ち返るのは、「それはユーザーにとって一番良いのか」「Technologyでもっと良くできないか」ということです。個社最適を超えて、自分たちの手で「1つのPayPay」を作っていく。それが、引き続き私たちが取り組んでいくエンジニアリングチャレンジです。 

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