この記事では、PayPayのデザインチーム初のオンラインイベントでお話しした中から「ケーススタディ」について掘り下げます。ここでは当社のシニアプロダクトデザイナーであるマリさんが、プロジェクトにおけるデザイナーの重要な役割について説明しました。特に、優先すべき問題に取り組むため、そして新たな問題を生み出さないためにも、解決策を描き始める前の「発見(Discover)」段階の重要性を話していただきました。これらのポイントに触れながらユースケースを紹介し、最後にプロセスを改善するためのいくつかのヒントをご紹介します。

Mariana Perez
プロダクト本部デザイン部
ブラジル出身のマリです!グラフィックデザイナーとして卒業した後、デジタルプロダクトの仕事に転向することを決めました。2016年に日本に移住し、日本のウェブデザイン会社に入社。2023年1月、PayPayに入社しました。
はじめに
大前提として、デザインとは美的な側面以上のことを考慮する必要があり、視覚的に魅力的なものを作ったり、画面の中で飛び出したりすることだけがデザインではありません。私たちのミッションは、ユーザーに最高の体験を提供すると同時に、企業の目標達成をサポートすることです。そのためにやるべきタスクは、色やコンポーネントを決める前に、まずは解決すべき問題を理解すること。ユーザーのエクスペリエンスとウェルビーイングを損なう可能性のあるすべてのものに目を向けます。
たとえば、以下のような問いが考えられます。
- ユーザーはどんな感情や考えを持っているのか?
- 分かりにくいのか、それとも明確なのか?
- 色や形はどのように解釈されているのか?
- ユーザーのメンタルモデルにマッチしているか?
- 適切なタイミングで表示しているか?
- ユーザーの行動に影響を与える他の外的要因は何か?
問題解決策を提供する際の決断に影響を与えうる全てのことについて、常に異なる視点から物事を理解しようとする必要があります。そのため、他のステークホルダーと協力し、彼らの視点を理解することは非常に重要なスキルです。
デザインプロセス

私たちは、いきなり何かを作ったりはせず、ベストなソリューションを提供するための適切なプロセスを大切にしています。 皆さんは、ダブル・ダイヤモンドモデルなどに代表される、デザインプロセスについてのさまざまな表現や解釈をすでにどこかでご覧になったことがあるはずです。
しかし、これらは全て基本的には発見(Discover) – 構築(Build) – 提供(Deliver)のステップで構成されています。つまり分析からインサイトが見つかり、インサイトがアイデアとなり、アイデアが形となりますが、ダイレクトに解に行き着くというよりは、プロセスの中でより多くの情報を得ながら、何度も行き来するものです。
私が注意している点は、このプロセスの中で最初の「発見」の段階を無視しないようにすることです。「発見」の段階で、正しい方向に向かっているのか、それとも見落としている重要な点があるかどうかを見極めることができるからです。特にPayPayのような多国籍なメンバーが集まる企業では、あるひとつの情報をとっても、それはすでに多くの人によってさまざまに議論されて、解釈されたものだったりします。だからこそ、そもそもの出発点や目的を全員が認識を一致させるのは常に重要なことなのです。
ケース・スタディ

私たちが実際に受けた依頼に基づいたケーススタディを説明します。
ある時、相当数のユーザーがアプリからログアウトしていることに気づきました。PMによると、ユーザーはログイン中の機密情報のセキュリティを懸念してログアウトをしているようだとのことです。これに基づくと、ビジネス目標はログアウトの頻度を減らすことです。
ログアウトのイベント数を減らすにはどうすればいいのでしょうか?ユーザーがログアウトしにくい状況を作るべきか? これを単独で考えると、私たちにできることはログアウト・フローを何とかすることしかなさそうです。
実際にユーザーがログアウトしないようにすることはできるのでしょうか?
現実の世界に置き換えて想像してみましょう。あなたがある店に入り、後で別の時間にまた来ようと思ったとする。あなたが出口のドアに向かっているとき、誰かがあなたの前に飛び出し、あなたの行く手を阻み、あなたが出るのを難しくしている。そんなとき、あなたはどう感じるだろうか?あるいは、ある場所に入った後、出口が見つからなかったとします。どう感じるだろうか?このような体験を私たちはユーザーに望んでいるのでしょうか?
なので、まず情報を集めて問題を理解することを忘れないようにする必要があるのです。
そのために、下記のようなことが大事です。
- 決めつけない
- できる限りのデータを集める
- より多くの人と話し合う
- 現状を把握する
- ユーザーに共感する
- より多くの情報を得ながら、問題を検討する

より詳しい情報を得るために私が行った質問の例をいくつか挙げてみましょう。
- なぜこの問題を解決することが重要なのか?
ビジネスの観点から言えば、ログアウトの回数を減らすことは、他のエリアへの影響を減らすことを意味します。 - 他にどのような部分に影響が出ているのか?
ログアウトすることで、ユーザーはパスワードを思い出せなくなり、新しいパスワードを作成できるようにSMSを送ることになります。 - この問題を裏付けるデータはありますか?
ログアウト要求の数が多いというデータがあり、ログイン試行回数のデータも同様にありました。このことから、これらのユーザーは実際に戻ってきていることがわかります。 部分的には問題を確認することができました。 理由については、 ユーザーからのコメントでセキュリティ上の懸念があったことがわかりました。しかし、すべてのユーザーが同じことを考えているとは思えません。
例えば、新しいデバイスで使用するためにアプリからログアウトする必要があるユーザーなど、他のシナリオも考慮する必要があります。
- ユーザーの目的は何でしょうか?
ユーザーにインタビューする時間はありませんでしたが、私が得た追加の情報から判断すると、ユーザーのゴールはログアウトすることではなく、私たちのアプリに再びログインすることです。これらのリピートユーザーはパスワードを覚えていないため、新しいパスワードを作成できるようにSMSを送信することになります。 - この問題はユーザーエクスペリエンスにどのような影響を与えるのでしょうか?
ログアウトは簡単に行なえる機能であるべきです。しかし、パスワードを忘れてしまうことは、テック業界全体においてよく知られた問題です。最近では、他にも効率的でスムーズな認証方法があります。
・・・となると、問題の根源は、当初とは別のところにあったとわかりますね。本当の原因を突き止めるために、関心を持ってできる限り多くの質問を投げかけてみましょう。

たくさんの質問をする中で、あまりの情報の多さに圧倒されてしまうかもしれないので、メモを取ることをお勧めします。そして、それを視覚化できればより良いです。 例えば、上の図は新しいプロジェクトを始めるときの私のノートがわりのFig Jamファイルです。これによって問題の全体像を目に見える形にすることができます。この時は現在のログイン、ログアウト、パスワード回復のフローをマッピングしました。こうすることで、ユーザーがどのような行動をとっているかを理解し、想定されるペインポイントを見極め、問題解決の糸口を見出すのに役立ちます。
また、異なる業界の似たような事例、可能性のある解決策、ベストプラクティスをインターネットでリサーチしてノートに書き加えましょう。 この過程で、物事と物事のつながりや問題解決の可能性が見えてくるとともに、脳裏に閃きが湧き上がってくるかと思います。
目標は、問題をより広い視点から見て理解することです。狭い視野で仕事をしていると、周辺への影響を考えずに、結果としてより多くの問題を引き起こす可能性があるからです。
ある情報が別の情報につながり、そして新たな発見につながっていくこのプロセス全体が、まるで探偵の仕事をしているかのように感じることがあります。 この過程で多くのことを学ぶことができるはずですから、落ち着いて複雑な情報から物事を読み解きましょう。

ご紹介した事例から得られる教訓は何でしょうか?
ユーザーは再ログインに問題を抱えているのですから、ログアウトの数を減らすだけでは根本的な問題の解決になりません。主要な問題を解決するには時間と労力が必要になるので、問題を最小限に抑えるアプローチを選ぶ必要があります。デザイナーとして、ユーザー体験の向上を常に考えますが、ビジネス目標とのバランスも重要ですから、時には主要な問題をすぐに解決するのが難しいこともあります。
適切なコミュニケーションとチームワークの中で各メンバーが異なる視点を持ち、建設的な議論を通じて最適な解決策を見つけることが大切です。そして実際に問題解決のため新しいアプローチを提案しても、制約があって将来的に解決が必要な課題が新たに生じるかもしれません。ただ、私たちのスキルをいかすことで、問題に新しい視点を持ち込むことはできます。
キーポイント

本記事で覚えておいてほしいことをまとめました。
- 解決すべき問題について、より深く考える
適切な問題設定をしないと、かえって新たな問題を増やしてしまうことになりかねません。一歩引いて考えることが大切です。 - 問題をさまざまな角度から理解する
関係するすべてのステークホルダーがそれぞれの異なる関心を持っているので、彼らが何を達成したいのかを必ず理解すること。ビジネス上の問題とユーザーニーズが同じでないこともあります。 - 学んだことをすべてテキスト化し、共有する
得たすべての情報を振り返って、より広い視点から問題を見ることができます。そしてそれを、ステークホルダーに問題を別の角度から見てもらうために使いましょう。 - 実現可能性を考慮し、柔軟に対応する
さまざまな制約が見つかり、設計上の負債を作ってしまうかもしれませんが、あとでそれを解決できるよう、PMと計画を立てるようにしてください。
終わりに
この記事をお読みいただきありがとうございました。本記事の内容は以上です。このプレゼンテーションで共有した気づきが、あなたの仕事やデザインキャリアに役立つと嬉しいです。今後もこのような記事を投稿していきますので、引き続きデザインブログ[Design Talks]をチェックしてください!
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