約50の国と地域から集まった個性豊かなプロダクトメンバーたちの声を通して、PayPayのモノづくりへの姿勢や雰囲気をダイレクトにお伝えするTech Talksシリーズ。
今回は、PayPayグループのAI活用を全社的に推進する AI Utilization Officeに所属するエンジニア2名にインタビュー。社内AIツールの開発秘話や、PayPayだからこそ感じられるAIエンジニアとしてのやりがいなどについて、詳しく語ってもらいました。

渥美 順仁(あつみ じゅんじ)
Product統括本部 システム本部 AI Utilization Office Engineeringチーム
ECサイトを展開する企業でシステムの開発・運用を経験。 その後、SIerにてシステムの設計、開発、運用・保守に従事。スマートフォンゲーム会社に転職し、社内ITエンジニアとして社内ツールの開発やインテグレーション、自動化で業務効率化を担当し、2020年2月から現職。 現在はAI Utilization OfficeでAIチャットボットなど社員向けAIツール開発を担当。

堀 正洋(ほり まさひろ)
Product統括本部 システム本部 AI Utilization Office Engineeringチーム
大学卒業後、SIerにてフロントエンドからバックエンドの開発を担当。その後、証券会社へ転職し、大規模な金融システムの運用を経験。 2022年9月から現職。現在はAI Utilization OfficeでAI活用に必要なプラットフォーム構築などを担当。
AIの活用推進・開発・新技術検証を横断的に担当
AI Utilization Officeの役割とミッションについて教えてください
渥美:
PayPayグループ全体におけるAI活用の推進・普及をミッションに掲げる組織です。もともとは生成AIの活用が急激に注目された2023年初頭から、社内の有志によって始まった部門横断での活動が設立のきっかけで、生成AIの重要度が増すにつれ、組織として拡大・体系化してきました。
現在の具体的な役割としては、AI活用のロードマップを策定するAI活用推進、AIを活用した社内向けアプリケーションを開発するAI開発、そして日々進化するAI技術をいち早く検証し、実用化への道筋を探る新技術検証、の3つが中心となります。
お二人はどのような役割を担っているのでしょうか?
堀:
私も渥美さんも、ともにAIエンジニアとして各種ツールの開発を推進しています。私はAI活用の基盤になるプラットフォーム・インフラ面の開発が中心で、渥美さんは後ほどご紹介するSlack型のチャットボット(以下、Slackbot)のように、社員が実際に触るフロントエンドのツール開発を担当することが多いです。

全社のAI活用人数は2年で5倍以上に急成長
直近で印象的だったプロジェクトについて教えてください
渥美:
社員がもっと気軽に、そして安全にAIを使えるようにするためのSlackbotの開発です。開発で最も意識したのは、いかにして社員の「AIに対する心理的ハードルを下げるか」という点でした。プロジェクトが始まった当初は、まだ生成AIに対する漠然とした懸念や忌避感が社内にもありました。そこでまず、多くの社員が日常的に利用しているSlackのUI上で、入力した情報が再学習されない安全なAPIを利用する形で提供することから始めたんです。
まずは「プロンプトとは何か」という定義から丁寧に認識を合わせる必要があり、具体的な使い方をイメージできるサンプル集を用意したり、様々なチャンネルにSlackbotを常駐させて他の人の活用事例が自然と目に入るようにしたりと、地道な工夫を重ねました。

技術的な側面では、将来的な拡張性を強く意識し、マイクロサービスアーキテクチャを採用しました。具体的には、RAGや学習データを保存するバッチ、LLMと対話するコンテナなどをそれぞれ独立したサービスとして構築し、それらが連携するAPIハブとしての役割も担えるよう設計しています。また、回答精度を上げるために、社内Wikiや規約の見出し、章単位で学習データをチャンク化し、ノイズの少ないテキストにしました。こういった工夫の結果、社内情報の学習(RAG)部分においては複数件で特許取得が実現しています。
堀:
私は、渥美さんが開発したSlackbotをはじめ、社内で利用される様々なAIを、セキュリティとガバナンスを担保しながら効率的に活用するための基盤である「LLM APIハブ」の開発が印象的でした。ここまで大規模なAIシステム開発の経験はなく、責任感とワクワクを同時に感じたことをよく覚えています。各LLMの特性を最大限に活かしつつ、コストを最適化し、特定のツールへの依存を防ぐ。そして何より、開発者や事業部のメンバーが安心して最新のAI技術を業務に取り入れられる環境を整えるべく、開発がスタートしました。
この開発では、新たな試みとしてDesignDocsという設計手法を導入した点が特徴です。DesignDocsは、単なる設計書とは異なり、「なぜその技術やアーキテクチャを選択したのか」という設計思想や意思決定プロセスまでを明文化する手法を指します。この手法を取り入れたことで、出発点である「なぜやるのか」について、開発メンバー間での認識齟齬がなくなり、円滑な意思疎通が可能になりました。特に、メンバー全員で1週間程度の短期・集中的なレビューを行ったことで、プロジェクトの初期段階で全員が同じゴールに向かい、ぶれない軸を持って開発を推進できたと感じています。
プロジェクトを進める上で、特に大変だったことは?
堀:
開発言語の壁にぶつかったことです。当初、APIハブの認証処理には、社内で利用実績のある既存ライブラリを利用する計画でした。しかし、開発の途中で、ライブラリの一部がPythonに対応していないことが判明したんです。
元のライブラリはJavaで書かれていたため、急遽その部分をPythonで自前実装する必要に迫られました。スケジュールへの影響が頭をよぎりましたが、ここで大きな力を発揮したのがAIでした。普段から開発に使っているSlackbotやGitHub Copilotにコードの書き直しを依頼したところ、ほとんど完璧なコードを生成してくれました。AIのおかげで、この危機をスケジュール遅延なく乗り切ることができました。まさに、自分たちがつくっているツールの価値を、開発の現場で再認識した瞬間でしたね。
苦労の甲斐あって、リリース直後の社内での反響は大きかったです。告知文を投稿した直後、仕様に関する問い合わせが殺到しました。経営層からも直接「期待している」という声をいただく機会もあり、全社からの高い期待と熱量を感じています。
渥美:
私は技術的な課題以上に、「いかにして使ってもらうか」という、ある種のマーケティング的な活動に苦労しました。ただ便利なツールをリリースするだけでは、日々の業務に追われる社員にはなかなか届きません。全社に告知しても、すぐに他の情報に流されてしまう。
この課題を克服するために、私たちは全社横断のAI活用推進プロジェクトを立ち上げました。各部署からAI活用に関心のある有志を募り、「自分の部署ならこう使える」「こんな業務を自動化したい」といった具体的な活用案を考えてもらったり、部署内での啓蒙活動を担ってもらったりしたんです。こうした、エンジニアだけではカバーしきれないPR活動を全社の仲間が担ってくれたおかげで、AIと社員の距離は一気に縮まり、活用の輪を大きく広げることができました。

Slackbotのリリースから約2年で、リリース当初から現在に至るまで社内のAI利用者数は5倍近く増加しました。前年比においても1.5倍と増加しており、全社で年間数十万時間もの業務時間削減を達成しています。また、社内報などで「AIを使ってこんな業務改善ができました!」といった活用事例を目にするたびに、このプロジェクトをやって本当に良かったなと実感しますね。引き続き、さらなるAI活用の浸透と削減時間の向上を目指していきます。
AI開発への追い風に乗り、未来の当たり前を創っていく
PayPayでAI開発に携わる魅力は?
堀:
経営層との距離が近く、エンジニアがボトムアップで「これをやりたい」と提案しやすい文化があることは、大きな魅力だと思います。新しい技術やツールに対しても非常にオープンで、例えばAIコーディングツールとして注目されているCursorなども、現場の声がきっかけで迅速に導入が検討されました。セキュリティ要件さえクリアできれば、驚くほどのスピード感で新しい挑戦ができます。
渥美:
PayPayグループ全体としてAI活用を強力に推進していることも、エンジニアにとっては最高の追い風です。対話型AIツール開発の枠を超え、AIエージェントの大量開発を目指すという明確な方針が示されています。そのため、「AI開発に携わりたい」という強い想いがあれば、チャレンジの機会は無数にあります。会社やメンバーからの期待を感じながら開発に没頭できるのは、非常に恵まれた環境だと感じます。
最後に、読者へのメッセージをお願いします!
渥美:
PayPayは、7,000万人のユーザー(2025年7月時点)を抱える企業でありながら、開発現場はスピード感と裁量に溢れています。特に私たちのチームは、少数精鋭で全社横断の大きなミッションに挑んでいます。利用する社員数やAIへの投資額といった大手ならではのスケールを感じながら、最新技術を使って前例のない開発をスピーディーに進められる。この両方の面白さを同時に味わえる環境はなかなか見つからないと思います。
私はPayPayに入社する前、いちユーザーとしてPayPayの100億円あげちゃうキャンペーンを体験し、新しい決済体験に感動した一人です。その時のワクワク感を、今度は開発者として社内のメンバーに届けたい。そんな想いで、今はAIエージェントの実装という新しい目標を追いかけています。ぜひ、一緒にワクワクするプロダクトをつくっていきましょう。
堀:
まさに今、PayPayのAI活用は挑戦のフェーズです。AIという変化の速い領域で、会社の「未来の当たり前」を自らの手で創り上げていく。私は今回の案件でもお世話になったAIコーディングの技術に注目しており、OpenAIのAIエージェント「Operator」のように、ブラウザが自動で動く仕組みを社内に構築したいと思っています。そんなエキサイティングな経験を、ぜひ私たちと一緒に味わいましょう。
※募集状況、社員の所属等は取材当時のものです。
