PayPayグループで働く圧倒的プロフェッショナルに迫るProfessionalsシリーズ。年間に数多くの機能がリリースされるPayPayのサービス。その裏側には、データとビジネスの境界線を越え、技術を社会実装へと導くプロフェッショナルたちがいます。今回登場するのは、金融戦略本部で与信プロダクトの攻守を支えるデータサイエンティストの銭 丹翌さん。いかにして分析の枠を超え、事業成長をダイレクトに担う存在となったのか。そのキャリアのリアルに迫ります。
銭 丹翌(せん たんよく)
金融事業統括本部 金融戦略本部 データサイエンティスト
ITベンダーにて金融機関向けの情報系システム開発に従事した後、IT専門商社にてデータサイエンティストとしてAI導入支援に携わり、技術とビジネスをつなぐコンサルティング業務で視野を拡大。2023年9月にPayPayへ入社。現在は、PayPay資金調達をはじめとする金融商品の与信モデル・マーケティングモデルの開発に加え、実装・運用・データ連携など、サービスの根幹から携わる。
提案側でなく、事業を動かす側への転身
PayPayへの入社理由と、データサイエンティストとしての現在の抱負を教えてください。
「自分の専門性は、本当に事業を動かしているだろうか」。キャリアの途上で、そう自問自答したことがあるエンジニアやデータサイエンティスト(以下、DS)は少なくないはずです。私もその一人でした。

私のキャリアは、日本での大学時代に経済学と出会ったことから始まりました。数字から社会の動きを読み解く統計学の面白さに魅了され、卒業後はITベンダーで金融システムの開発に携わりました。金融ドメインの基礎を学んだ後、大手企業を中心に、さまざまな業界のデータ活用を支援するAIコンサルタントとしての経験を積みました。コンサルタントとして提案に向き合う中で、精緻なモデルであっても、組織や意思決定の構造によって社会実装まで届かない場面を何度も経験しました。その経験が、事業の内側でデータに責任を持ちたいという想いにつながっていきました。
そんな折に出会ったのがPayPayでした。選考プロセスで対話したビジネスサイドのメンバーからは、「このプロダクトで世の中を驚かせたい。一緒に走れるパートナーを探している」という、共創への強い渇望が伝わってきました。提案という安全な場所を離れ、成功も失敗も分かち合う当事者になりたい。PayPayなら、金融システムの正確さと、ITサービスの爆発的なスピード感、その両方をDSとして高い次元で経験できる。その確信が、私の背中を強く押してくれました。
与信の攻守を、データで動かす
現在の業務内容とミッションについて教えてください。
現在は金融戦略本部のConsumer Creditチームに所属しながら、Merchant Creditの領域にも深く関わっています。ミッションを一言で表すと、PayPayの膨大なデータを、いかに安全かつスピーディに与信(クレジット)という価値へ変換し、事業成長に繋げるかにあります。
特に私が注力しているのは、PayPayにおける機械学習活用の象徴とも言える「PayPay資金調達」というプロダクトです。DSの役割は、単に精度の高い予測モデルを作るだけではありません。金融という、ミスが許されない「守り(リスク管理)」の領域でありながら、PayPayらしい「攻め(事業拡大)」のスピードを両立させるという、難易度の高いトレードオフの境界線を引くことが求められます。
入社当初はモデル構築がメインでしたが、現在は企画段階でのデータ集約、要件整理、さらには他部署との優先度調整や交渉といった、いわゆる橋渡し役の比重が増えています。プロダクトチームやビジネスサイドと同じテーブルに座り、この機能はいつまでに、どんなインパクトを生むために必要なのかを泥臭く議論し、実装までを共に完走する。その当事者意識を持つことが、私にとっての大切なスタンスです。

資金調達を進化させる、データの力
直近で、特に印象に残っている取り組みはありますか?
やはり「PayPay資金調達」のリリースやアップデートプロジェクトです。私が入社した時にはすでに基本設計は終わっていたのですが、そこから実用化に向けた精度向上、さらには実際のサービス稼働に向けたインフラ面の仕様検討など、非常に広範な領域に携わりました。PayPayにとって初めて機械学習をフル活用した金融サービスだったこともあり、一度成功例が出ると、ビジネス側からは「これもモデル化したい」「次はこの指標で最適化してほしい」と、非常にポジティブかつハイスピードな要望が次々と届くようになりました。自分の作ったモデルが、実際の加盟店様へのオファー条件に反映され、それが売上という数字になって返ってくる。その手応えは、コンサルティングの立場ではなかなか得られなかったもので、事業の中でデータサイエンスに向き合っている実感を持てた経験でした。
また、PayPay銀行との協働プロジェクトも、私の転機の一つです。銀行固有のデータを用いながら、どのようなモデルを構築し、どの指標を判断軸にすべきかといった上流工程から関わりました。異なる組織文化の中で、共通のKPIをデータで定義し、ダッシュボードで可視化していくプロセスは、まさにデータで組織を繋ぐ経験でした。
プロジェクト推進のうえで、特に大切にしている考え方はありますか?
プロジェクトを動かす際には、異なる視点を持つ他部署といかに建設的な議論ができるか、という点を非常に大切にしています。以前、あるプロジェクトを進める中で、私たちの部署としてはすぐに実装したい。けれど、プロダクト側はリソースの関係で今は対応が難しいという状況に直面したことがありました。そこでお互いに妥協点を探って立ち止まるのではなく、私たちは「ビジネスにとって今、絶対に必要だ」という確信のもと、自分たちのチームで実装の一部を柔軟にサポートし、二人三脚でリリースまで漕ぎ着けたんです。結果としてパフォーマンスは非常に良く、実験は大成功に終わりました。
このように、プロダクト側の状況も尊重しつつ、自ら手を動かしてプロジェクトを前に進める推進力が必要な場面がある一方で、DSには、冷静にブレーキを踏むバランス感覚も必要だと考えています。特に与信領域は、常に収益とリスクがトレードオフの関係にあり、ビジネス側がアグレッシブに動いている局面ほど、感覚ではなくデータで状況を捉えることが重要になります。
私たちのチームでは、機械学習モデルを本格的に採用・変更する前に、まず既存の運用に影響を与えない形で検証を行い、想定されるパフォーマンスやリスクを事前に測るようにしています。いきなり「このモデルを使いたい」と主張するのではなく、「この条件下では、こういう影響が見込まれる」という事実を先に揃えるイメージです。また、モデルの変更やバージョンアップに合わせての評価の観点を整理し、その結果を可視化した形で共有することも意識しています。リスクマネジメント部門とは、同じ指標・同じレポートをみながら議論することで、感覚論ではなく、共通の判断軸で話ができるようになります。大切にしているのは、単にリスクを指摘して終わりにしないことです。どの条件であれば安全に挑戦できるのか、どこまでなら許容できるのか。データを根拠に代替案まで含めて提示することで、結果として「納得した上で前に進む」合意形成に繋がっていると感じています。

多様な知が、挑戦を駆動する
所属チームの雰囲気について教えてください。
一言で表すなら、多様なプロフェッショナリズムでしょうか。海外の銀行で本格的な与信実務を積んできた人もいれば、他社のネットサービス企業出身者、あるいはITベンダーでエンジニアリングを極めてきた人、データ戦略部から兼務で入っているDSもいます。
会議では日本語、英語、中国語が混ざり合うこともしばしばです。私は3言語を扱えるので、開発側のエンジニアと日本のビジネスサイドの間に入って、「銭さんのおかげで、ようやく技術的な意図が正しく伝わった」と言われる機会も多く、自身の背景がダイレクトに仕事の武器になっている実感があります。また、私たちは情報の属人化を避け、知識をオープンに共有する文化を大切にしています。誰か一人が抱え込むのではなく、ペアで仕事を進めるスタイルが定着しており、毎週のナレッジ共有会では、Snowflakeの便利な使い方から位置情報データの活用事例まで、何でも自由にアウトプットし合います。
チームメンバーの多くがパパ・ママ社員であることも特徴です。ライフイベントに対して非常に柔軟で、誰かに何かあればチーム全体でカバーし、上司を巻き込んで解決する。ハイブリッドワークスタイルなのでリモートワーク時でも、孤独を感じることなく、プロとしてお互いを支え合う環境が整っています。
モデルを越えて、事業を動かすDSへ
PayPayでDSとして働く面白さは?
私が感じているPayPayでの面白さは、DSを理論ではなくプロダクトの一部として一気通貫で経験できる点に尽きます。まず、扱うデータの規模が圧倒的です。7,200万人(※2025年12月時点)というユーザーと数百万規模の加盟店から日々生まれるデータがリアルタイムで動いている。この環境自体が、DSにとって大きな挑戦であり、同時に大きなチャンスだと感じています。しかも、まだ活用しきれていない領域も多く残っています。
さらに面白いのは、PayPayのデータでは、ユーザーを単なる「点」や「線」としてではなく、より立体的に捉えられることです。決済履歴、属性、行動パターンといった複数の側面から分析できるため、残高や信用スコアだけでは見えなかった消費傾向や行動特性まで把握できます。こうしたデータをもとにユーザー像をより鮮明に描くことで、どの層に、どのような価値を届けるべきかを具体的に議論できる。その手応えがあります。
また、同じチームにマシンラーニングエンジニア(以下、MLE)がいることも特徴です。DSがモデルを作り、MLEがそのパイプラインや運用基盤を構築する。お互いの領域に少しずつ手を伸ばしながら、どちらの仕事も体験できる環境は、技術的な好奇心が強い人には刺激的な環境だと思います。
PayPayでは最新のAIツール導入も非常に速く、最近ではCursorなどの開発支援ツールが開発陣に広く開放されています。その結果、開発効率は確実に向上しました。その分、プロジェクトの目的設計や優先順位付け、ユーザー理解といった、より本質的な意思決定に集中できます。コーディングそのものよりも、「何を実現すべきか」「その意図をどう伝えるべきか」に向き合う時間が増えたことで、データサイエンティストとしての役割がより高度化していると感じます。
変化を糧に、次のステージへ
今後の目標やビジョンについて教えてください
PayPayの与信領域は、まだ大きな伸びしろがあると思っています。従来の銀行が持つような安定した運用レベルと、PayPayならではのクリエイティブな挑戦。この二つをどう高度に融合させるかが、これからの私の挑戦です。
私は、単にアカデミックな研究を追求するのではなく、事業センスを磨き、多方面に働きかけられるようなDSになりたいと考えています。与信やマーケティングのドメイン知識を深め、単なる分析担当者ではなく「事業を成功させるためのパートナー」として、プロジェクト全体をリードする役割にも踏み出していきたいです。モデルの精度を1%上げることに固執するのではなく、その1%がユーザーの体験をどう変え、収益をどう動かすのか。そこまで責任を持てるプロフェッショナルでありたいですね。

挑戦に向き合う意志が、キャリアを前進
PayPayで活躍できる人、その共通点はどこにあると思いますか?
まず第一に変化を前向きに捉えられる人です。PayPayでは、朝決まったことが夕方には変わっていることも珍しくありません。状況が動くことを楽しみ、柔軟に対応できる力が必要です。そして、私はコミュニケーションを大切にできる方と、ぜひご一緒したいです。私たちの仕事は、単にモデルを作ることだけで完結するものではなく、その結果をどうプロダクトや事業の意思決定に繋げるかまでを考える仕事です。プロダクト、マーケティング、リスクマネジメントなど、さまざまな専門性を持つメンバーと対話しながら、データの示唆を共有し、より良い選択肢を導き出していく必要があります。特定の領域に閉じず、データサイエンスの専門性を軸に周りと協働できる方ほど、結果的にプロダクトや事業に大きなインパクトを残していると感じています。
技術的な要件で言えば、PythonやSQLのスキル、モデルのロジック説明能力は当然求められます。しかし、それ以上に自分のキャリアに一貫性を持ち、積み上げていきたいという意志を重視したいです。ここでしか得られない膨大なデータと格闘し、それを社会実装したいという熱意がある方を求めています。
来日した時、私は不安よりも好奇心が勝っていました。PayPayでの挑戦も、それに似ています。自分の専門性がどこまで通用するのか、この巨大なデータをどう活かせば新しい価値が生まれるのか。そのワクワクを共有できる仲間を待っています。「事業の中でデータを活かしたい」「自分のスキルで社会を動かしたい」。そう思っているなら、PayPay以上に刺激的な場所は、他にないはずです。ぜひ、一緒に新しい金融の形を作っていきましょう。
