PayPayリーダーインタビューは、PayPayトップの人柄や考え方をシリーズでご紹介しています。今回ご紹介するのは、マーケティング本部長の藤井 博文さんです。
藤井 博文(ふじい ひろふみ)
事業推進統括本部 マーケティング本部長
ソフトバンクモバイル株式会社マーケティング本部部長、プロダクトマーケティング本部統括部長、サービスコンテンツ本部サービスマネジメント部統括部長を経て2018年8月より現職。
継続的な成長を生み出すPayPayのマーケティング戦略とは
ユーザー数が5500万人を超えましたが、次にマーケティング部門が向かう先は?
今は、「アクティブユーザー数」の横軸・「ユーザー1人当たりのLTV」の縦軸の両方を伸ばして、その面積となる総合LTVの最大化を図るフェーズに入っています。
1つは、引き続きユーザー数のすそ野を広げる横軸を伸ばすことです。PayPayは全国民に利用いただけるプラットフォームだと思っていますので、最後の一人までやりきりたい領域です。
ただ、これまでの数々のキャンペーンを経てもPayPayを使っていただけなかった層へのアプローチは、これまでとは違ったものにしないといけない。ユーザーのセグメント化を含めて、かなり丁寧な作業を行っていく必要があります。
もう1つが、一人当たりのLTVを増やして縦軸を伸ばすこと。ユースケースを増やし、接触頻度を高め、ロイヤリティを高める、など、いわゆるCRMの領域です。新しいサービスの利用を積み重ね、顧客の生涯価値を高めるといったユーザーグロースの領域にも並行して取り組んでいます。

PayPayの急成長を支えるマーケティング戦略を生み出す鍵は?
以前のインタビューでも少し触れましたが、重要なポイントは再現可能な型を作ることだと思っています。良いアイデアや良いキャンペーンを労力をかけてひねり出しても、一回で終わってしまったら効率が悪いですよね。新たなアイデアを生み出せない期間が発生すると、PayPayの成長を止めることにもなりかねない。だから、成功したモデルは型化して→それを育てて→擦り切れるまで繰り返す。そこで時間の猶予を作り、その間に次の型を作る、というサイクルを回します。我々のように継続的な成長を求められている環境では、特に重要ですね。
例えば、地方自治体と連携した「あなたのまちを応援プロジェクト」は、コロナ禍の中で自治体さま側のニーズに適合し、大ヒットした「型」となりましたが、現在は、自治体の新たなニーズに合った次なる型の準備に入っています。
PayPayの成長の裏にある、成功と失敗
決済時に流れるサウンドロゴの誕生背景について教えてください!
実は立ち上げ当時、電子マネーではサウンドロゴを入れている会社があったんですが、モバイル決済ではどこも使われていなかったので、どこかでチャレンジしたいとは思っていました。2018年12月に大規模なキャンペーン(「100億円あげちゃうキャンペーン」)を行うことが決まっていたので、そこに向けてひっそりとサウンドロゴの準備を進めてはいたんです(笑)。音源を20パターンほど作ったり、社内アンケートを取ったりして、「100億円キャンペーンに合わせて導入しませんか?」と社内で提案したんですが、リソースの問題などもあって、その時点では導入しない予定でした。
ところが、キャンペーン開始の2週間くらい前に、当時のSoftBank社長の宮内さんからPayPayの中山社長に「サウンドロゴは入れないのか?」と電話が入りまして。それで、中山さんから電話で「準備してない?」と聞かれて、「準備してます」と懐から出したという経緯がありました(笑)。
最後はプロダクト側も無理をしてくれて、キャンペーンのスタートに間に合い、日本中に「PayPay♪」の音を鳴り響かせることができたんです。サウンドロゴのおかげで「みんな使ってるんだ」と認知を広げるきっかけにもなりましたし、あのタイミングで導入できたのは大きかったですね。

ちなみに、過去には失敗した施策もあるんですか?
沢山あります。
夏に関東近郊のビーチリゾートでオフラインのプロモーションをしたら、冷夏で毎週末雨が降ってしまって全く人が集まらなかったり、内容が複雑で対象店舗も限定的なキャンペーンを企画してしまった結果、十分なユーザー認知が取れず全く効果につながらずに数十億を溶かしてしまったり…。
失敗してもいいから数打って、良かったものを伸ばすしかない。マーケティングってそういうものだと思うんです。ただ、やりっぱなしにはしないこと。なぜ失敗したのかがわかれば前に進めます。
次々にアイデアを生み出すコツは?
自社のサービスや、業界、マーケティング関連の情報にアンテナを張って、引き出しを増やしておくことはマーケターとして最低限の条件だと思います。自分へのインプットを増やしておかないとアウトプットの量も質も向上しない。加えて、情報と情報を紐づける力も重要になってきます。入ってきた案件にどの引き出しを使うか、ということです。良い組み合わせを見つけるのはセンスもありますが訓練も可能ですし、引き出しが多い方が成功の確度は上がると思っています。
より広く、より深く、より速く
現在のマーケティング本部の課題や、強化したいことを教えてください
マーケティングって、要は「自社の良いところを世の中の人に伝えて、知ってもらって、実際に使ってもらうこと」ですよね。まず良い商品があるかどうかが重要になりますが、我々は非常に恵まれていて、使いやすくて進化の速いアプリと、日本最大規模の加盟店網がある。でも、それが世の中にちゃんと伝わっているかは別問題で、伝わってない部分があるから今の成長にとどまっているとも言えます。
PayPayの未利用ユーザーに、PayPayを使わない理由を調査してみると、「使える店が少ないから」とか「使いすぎが心配だから」とか、我々が強みとしている部分も理由として出てくる。マーケティングの力不足の現れだと思っています。100%理解してもらうのは難しいですが、コミュニケーションの仕方や媒体の選び方で伝わり方は変わってくるはず。今が最適な状態だとは全く思っていません。
これだけユーザーが増えてきたので、細かなセグメントで施策を打つ価値も出てきています。PayPayユーザー5500万人を50のセグメントに分けても100万人以上の規模があるわけですからね。さらに深いマーケティングにも踏み込んでいきたいと思っています。

藤井さんが大切にしているカルチャーは?
PayPay 5 sensesの中で言うと、「SPEED is our bet on the market」です。市場の動きも速いし、ユーザーの行動や考え方も変遷しているので、マーケターとしてそこをしっかり捉えないといけません。変化をいかに素早く感じとって、素早く適応できるかが求められる時代だと思います。
速いスピードに対応するために取り組んでいることはありますか?
今は、意思決定のプロセスの明確化に取り組んでいます。
案件を進める際のルールをある程度決めて、その型どおりにいけば最速で案件が進む仕組みづくりです。型に固執すると不要なことまでしてしまう面も出てきますが、何をすればいいかわからず時間を浪費するよりはよっぽど速いと思っています。
この案件は50項目のうち20項目クリアすればいいと先にわかればスピードアップもしますし、ミス防止にもつながります。
目指すは渋沢栄一氏の勇退
今後、成し遂げたいことを聞かせてください!
数年前に海外を視察し、キャッシュレス決済の浸透状況を見た時に「これが我々が目指す未来像の一つの形なんだな」と感じたのを今でも鮮明に覚えています。誰も現金を使ってないんですよね。日本がそうなるのはまだ遠い状況ですが、必ず実現させたい。
日本経済の祖である渋沢栄一先生がデザインされた新しい一万円札が来年から発行されますが、先生に早期に退場してもらうことが一番の恩返しになると思うんです。一万円札が廃止になるくらいキャッシュレス化を進めたいですし、それをPayPayが先導していきたい。
まだ日本の個人消費における現金のシェアが40-50%を占めており、100兆円以上が毎年使われている。このキャッシュレス化を我々が主導し、シェアを半分取れれば50兆円のGMV増になる。この領域はぜひ戦略的に取り組んで行きたいと思っています。

メンバーと組織の成長のために大切にしていることは?
各領域でのプロフェッショナルな人材を中心に採用していますので、専門領域で能力を最大限発揮していただいて組織成長に貢献してもらうことが大前提です。 さまざまな施策に関して、高速でPDCAを回していく環境が整っていますから、他の会社なら3年、5年かかる経験を1、2年で積めると思っていますし、それが個人の成長にもつながると考えています。
一方で、自身の専門領域だけでなく、周辺の領域にも意欲的に関与していく姿勢を大事にして欲しいです。新しいビジネスアイデアやキャンペーン案を募って、温めていたアイデアをアウトプットしてもらう機会を定期的に設けています。9割のリソースはプロフェッショナルな領域に割いてもらいつつ、1割は自由に使えるリソースを残して、新しいチャレンジにつなげてもらえるのが理想です。
PayPayのマーケターに求められるスキルとは?
数字に関する感度や、数字を読み解く力は必須のスキルです。
PayPayは決済の会社ですから決済データを大量に持っていて、ユーザーの支出の状態をある程度明らかにできています。将来的には加盟店のPOSデータとの連携により「何を買っているかの情報」や、デジタル給与払いの開始に伴い「ユーザーの収入に関する情報」まで把握できるかもしれない。この大量のデータを活用してユーザーや市場を理解する力は、マーケティングの部署だけでなくPayPay全体に必要なスキルだと思っています。まだまだ成長途上のPayPayで、一緒に社会を変えていくチャレンジャーをお待ちしています。
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協力:Hirofumi Fujii / 執筆・編集:Moe(PayPay Inside-Out編集部)/ 撮影:Keizo & Yuki
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