日本国内で7,100万人以上のユーザー(2025年9月時点)、そして年間数十億件の取引を支えるPayPay。その技術基盤を強化するために、2023年に設立されたのがPayPay Indiaです。発足からわずかな期間で、インド拠点はPayPayグループにとって欠かせない開発ハブへと成長しました。
今回のラウンドテーブルでは、PayPay IndiaのマネージングディレクターであるMune、そして3人のシニアエンジニアリングマネージャーShu、Ayush、Harshが登場。それぞれの担当業務、堅牢で信頼性の高いシステムの構築、継続的な進化、セキュリティや不正防止、スピードと品質の両立、国境を越えた協働体制などについて語り合います。彼らがPayPayグループのフィンテックの未来をどのように形づくっていくのか、その挑戦を紹介します。
Introducing PayPay India’s Leadership and Vision
― まずは、現在の役割や担当について教えてください。
Shu:
2020年にPayPayへソフトウェアエンジニアとして入社し、主に決済領域を担当してきました。徐々にマネジメントに軸足を移し、2025年10月からはPayPay IndiaでPayment Technology部門のシニアエンジニアリングマネージャーを務めています。
入社以来、常に「決済」に関わってきましたが、インドでその部門を率いることは自分にとって新たな挑戦であり、とても刺激的です。現在は外部委託に頼らず、自社開発による内製化を進めています。私たちの目標は、PayPayのみならずグループ全体のスムーズな取引を支える、安全でスケーラブルなコンポーネントを構築することです。すでにPayPayカードとも協働を開始しており、今後は他のグループ会社にも開発支援を拡大していく予定です。PayPay Indiaがテクノロジーの中核として、グループ全体を支える高品質なプロダクトを生み出すこと──それが私たちの大きなビジョンです。

Ayush:
私もShuと同じくソフトウェアエンジニアとして2019年にPayPayへ入社しました。当初は決済チームに所属していましたが、その後はより大規模で複雑なプロジェクトに個人として携わり、現在はFinance & MerchantとQAの2部門を統括しています。
Finance & Merchant部門では、消費者と加盟店の双方に向けたプロダクト開発を担当しています。AIプラットフォームを統合し、よりスマートで効率的なソリューションを実現しています。一方、QA部門は、すべてのリリースが安定性・信頼性を備えていることを保証する役割を担っています。
私にとってのミッションは明確です。「イノベーションを届け、品質を保証すること」。この2つのバランスこそが私たちの仕事の核だと考えています。
Harsh:
私はPayPay創業期から在籍しており、決済、外部金融機関との統合、加盟店送金システムなど幅広く担当してきました。
その後、PayPayの成長に伴い、開発者が安全かつ効率的にサービスをリリースできるようにするため、SRE(Site Reliability Engineering)領域に移りました。その後、SRE組織が立ち上がり、現在はDeveloper Experience、キャパシティ管理、信頼性向上チームへと発展しています。
現在はPayPay IndiaのAI・データ部門を率いるとともに、日本側の一部チームも巻き込みながら協働しています。PayPayの膨大なユーザー数と取引量において、データはプロダクト改善の要です。 データサイエンス、機械学習、そして生成AIを戦略的に組み合わせ、そこから得られるインサイトをユーザー体験の向上に結びつけています。
PayPayのさらなる成長に向けて、私たちの使命は「データを基盤に、より賢く、よりパーソナライズされた体験を提供すること」です。
― Muneさん、現在のPayPay Indiaの位置づけと、直近の組織再編の意図について教えてください。
Mune:
PayPay Indiaは2023年、PayPayプロダクトチームの水平展開として設立されました。当初は特定プロダクトのエンドツーエンド開発を担っていましたが、時間とともにその範囲は拡大し、PayPayグループ全体の開発への貢献度も高まっています。
今年の初めには、グループ会社のひとつであるPayPayカードとの協業も始まりました。インドの優秀なエンジニアたちが日本側のチームと密に連携し、グループ全体での内製開発推進を支えています。これはPayPayグループ全体の技術基盤をより強固にするための大きな一歩です。
2025年第3四半期からは、この拡大した責任範囲に合わせて新しいチーム構造を導入しました。組織のスケールアップに伴い、チームワークや部門横断的な協力、実行スピードを加速させることが目的です。そのため、各チームやマネージャーにより大きな裁量と責任を与え、メンバーとの距離を近づけました。
この変革の狙いはシンプルですが強力だと思っています。小さくつながりの深いチームこそが、より深い議論、迅速な意思決定、そして高品質な成果を生み出すと考えています。これは単なる組織変更ではなく、エンジニアやマネージャー全員が成長し、協働し、PayPayグループの未来に貢献できる環境づくりを意味しています。
Scale and Reliability
― PayPayは現在、7,100万人以上のユーザーと年間数十億件の取引を支えています。このスケールで、どのような課題に直面していますか?
Harsh:
私にとって最もエキサイティングな挑戦は、堅牢で信頼性の高いシステムを構築しながら、ユーザーにとってあくまで自然に使える体験を維持することです。数十億件のトランザクションを扱う以上、何かが起きる可能性はゼロではありません。重要なのはユーザーがトラブルに直面したときでもストレスなく、PayPayへの信頼を失わないようにすること。そのために、システム設計の段階からエラー処理を美しく行う仕組みを組み込んでいます。
スケーリングの挑戦に終わりはありません。今日うまく動いている仕組みが、5年後も通用するとは限りません。だからこそ、常に先を見据え、他社の成功や失敗から学び、PayPayに最適な形を再構築し続けることが求められます。エンジニアとして、こうした課題解決の旅こそがモチベーションの源です。難しい問題を解決し、何千万人ものユーザーが快適に利用する姿を見るとき、深い達成感を感じます。
Ayush:
その通りですね。特に「超PayPay祭(※)」のような全国規模の大型キャンペーン時には、アクセスが急増することを想定して、1〜2年先を見越したスケーラビリティ設計を行います。システムが継続的に進化できるよう、アーキテクチャを定期的に見直し、必要に応じて新しい技術の導入も検討します。
大型キャンペーン前には、コードフリーズ(リリース前の変更停止)、プロアクティブモニタリング、段階的なリリースなどの運用ルールを厳守し、高負荷下でも安定した稼働を維持しています。
※超PayPay祭:全国の加盟店やオンラインショップで抽選でPayPayポイントがあたるキャンペーンなどを実施する施策。

Harsh:
さらに、マーケティングチームとも密に連携しています。トラフィック予測・キャパシティ計画・パフォーマンステストを実施しています。そうやってピーク時にもPayPayが「速く」「止まらず」「信頼できる」状態を維持できるようにしています。
このような先回りのアプローチと、Ayushが述べたような継続的監視の組み合わせが、インシデントを最小限に抑えています。その結果としてユーザーから得られる「PayPayなら安心して使える」という信頼。それこそが、私たちが舞台裏で努力を重ねる一番の報酬なんです。
AI and New Expectations
― AIはプロダクトの開発をどのように変えているのでしょうか?
Harsh:
AIはもはや付加機能ではなく、PayPayのイノベーションを支える核になりつつあります。開発スピードの向上、よりスマートなプロダクトの実現、そしてユーザーや加盟店への実際的な価値提供、そのすべてにAIが関わっています。
たとえば、AIは加盟店向けPayPay資金調達やユーザーサポートなどの金融サービスを支えています。AIによって、より良い予測モデル策定や個別化された体験、即時の問題解決が可能になります。AIは単なる技術ではなく、新しい金融プロダクトを生み出す推進力なのです。
Ayush:
本当にそうですね。フィンテック業界全体がいま、「取引中心」から「知能中心」へとシフトしていると感じています。単に決済を処理するだけでなく、AIによってインテリジェントなソリューションを構築しています。これは大きな意識の変化です。
AIはエンジニアを置き換えるのではなく、力を拡張してくれる存在です。ジュニアエンジニアはルーチン作業をAIで効率化し、シニアエンジニアは複雑なデバッグや最適化をAIと共に行う。AIと協働することで、課題発見が早まり、よりスマートで迅速な判断ができるようになります。これはエンジニアにとって非常に前向きな変化です。

Shu:
その通りですね。PayPayは日本のキャッシュレス分野のリーディングプレイヤーであり、膨大なリアルデータが日々流れています。だからこそ、AIを信頼と体験の両面で革新の手段として活用できる大きなチャンスがあります。
AIはユーザーや加盟店の体験をよりスムーズでパーソナライズされたものにするだけでなく、不正防止の観点でも重要です。業界全体で不正利用が増える中、AIを使って不正パターンを事前に検知し、ユーザーと加盟店の安全を守っています。AIはPayPayのプロダクトを変革するだけでなく、私たちが築いてきたエコシステムを守る盾でもあります。
Harsh:
日本とインドの両拠点でAI開発を進める中で、クロスボーダーな連携の重要性もますます高まっています。こうした協働体制によって、コンプライアンスやセキュリティの水準を保ちながら、より早くイノベーションを実現することができます。
私たちの目標は、PayPayだけでなくグループ全体で共通利用できるAIプラットフォームを構築することです。たとえば、チャットボット、レコメンドシステム、不正検知などの仕組みを共通化し、再利用可能な形にする。こうしたグローバル課題を国境を越えて解決することこそ、真の加速を生み出すと思います。
Speed and Quality
― スピードと品質は、ときにトレードオフの関係になるように思えます。どのように両立しているのでしょうか?
Ayush:
正直に言うと、私はスピードと品質は対立しないと考えています。PayPayでは、両方が価値提供の柱です。高速・安全・スケーラブルであること、それがユーザーの信頼につながるからです。
その両立の鍵は、計画と自動化です。全部を一度に開発するのではなく、最もインパクトの大きいプロジェクトを優先し、そして初期段階から品質を組み込みます。テストは開発と並行して進め、自動化されたパイプライン(CI/CD、性能テスト、モニタリング)を活用して、スピードを維持しながら高い品質を確保しています。
たとえば、PayPayデビットプロジェクトではPayPay銀行と直接接続するため、厳しい納期の中でもセキュリティと信頼性を一切妥協できませんでした。明確なSLAや性能指標、100%自動テストを定義し、安全でシームレスな取引を実現しました。これこそ、スピードと品質の両立です。

Mune:
まったく同意です。そもそも、スピードと品質はトレードオフではありません。私の経験上、ボトルネックはコーディングやテストのスピードではなく、「何を、なぜ作るのか」を定義する部分にあることが多いです。だからこそ、私たちはコミュニケーションとコラボレーションを重視しています。特にPayPay Indiaでは、メンバーが直接顔を合わせる時間を大切にしています。PayPayのサービスは現地では利用できないため、オフィスでの協働を通じてプロダクトの背景を共有し、理解を深めることが重要なんです。その理解が一致すると、自然とスピードも品質も上がります。
Shu:
実際、私たちの組織構造自体がこのバランスを体現しています。階層をできるだけフラットにし、シニアマネージャーとエンジニアが近い距離で意思決定できるようにしています。結果的に、判断が早く、透明性が高まり、指示を待つよりも自ら動けるチームが育っています。
もうひとつ重要なのは、オーナーシップです。PayPay Indiaでは、ジュニアからシニアまで、全員が何らかのプロジェクトの一部を「自分ごと」として持っています。各機能には担当責任者(PIC)が明確に設定されていて、責任感を持って開発を進めています。自分の仕事に誇りを持つことで、自然と品質が高まります。
さらに、システム設計やアーキテクチャのレビューを徹底し、PayPayアプリの高い品質基準を全員で担保しています。つまり、私たちはスピードと品質は二者択一ではなく、強い協働、オーナーシップ、そして正しく速くつくるという共通意識で両立させています。

Opportunities and Growth
― グループ全体の開発拠点としてPayPay Indiaが成長していく中で、エンジニアにはどんな機会があるのでしょうか?
Harsh:
フィンテックの面白さは、扱う領域の広さです。PayPayでは、基本の機能である決済に加えて、銀行・カード・証券といった多様な分野がひとつのエコシステムの中で連携しています。つまりエンジニアは、単一システムだけでなく、金融の全体像を体験できるんです。
PayPayグループ全体で見ると、私たちは「金融のすべてをつなぐプラットフォーム」を作っています。銀行がどう動くか、カードシステムがどう機能するか、加盟店向けツールがどうユーザーと交わるのか。それらすべてを自分の手で設計し、統合していく経験は、他ではなかなか得られません。
まさに、統合の時代に立ち会っていると言ってもいいでしょう。まるで複数の会社をひとつのグループに融合させるような時期です。いま私たちはPayPay単体ではなく、グループ全体でどう機能するかを考えて設計しています。こうしたスケールと統合を同時に体験できるのは、エンジニアにとって非常に貴重な機会です。
Shu:
その通りですね。PayPay Indiaの魅力は、エンジニアに大きな裁量と責任が与えられることです。単に仕様どおりにコードを書くのではなく、自らプロジェクトをリードすることが求められます。
私たちは日々、膨大なデータを扱うため、エンジニアはシステム設計、アーキテクチャ、インフラの深い理解が求められます。既製のSaaSツールでは対応しきれない課題も多く、自分たちで新しいソリューションをゼロから作ることも珍しくありません。たとえばAWSを使っていても、現実世界の障害や制約にぶつかることがあります。そのたびに、自分たちの手で耐える仕組みを作る。それが技術者としての大きな学びにつながっています。PayPay Indiaでは、技術を「使う」だけでなく、「どう進化させるかを自分で決める」ことができる。技術的にもリーダーシップ的にも成長できる場なんです。

Ayush:
PayPay Indiaはグループ全体の開発拠点として急速に拡大しています。新しい領域、新しいチーム、新しいリーダーシップポジションが次々と生まれています。
エンジニアは、決済、銀行、融資、AIといった多様な分野を経験しながら専門性を高めることができます。より主体的に業務に取り組み、質の高い成果を出すことで、技術的な深み、リーダーシップスキル、そして影響力を急速に拡大していけます。ここは、成果と貢献が本当に評価される、成長スピードの速い環境です。
さらに、AI関連でもグループ全体のベストプラクティスを策定する役割を担っており、スピード・品質・セキュリティすべての基準を定義しています。脅威分析やアーキテクチャチェックリストなどの仕組みも整え、リリース前からスケーラビリティや信頼性を考慮しています。PayPay Indiaは開発拠点であると同時に、エンジニアリングの中核拠点と言ってもよいでしょう。
Harsh:
まさにそうですね。私たちは「HQ対オフショア」ではなく、One PayPayの一部です。インドのエンジニアも同じシステムを作り、同じ課題に取り組み、同じユーザーのために価値を生み出しています。国境はあってもチームはひとつ。だからこそ、スピードも、技術探求も、連携も、これまで以上に進化しているのです。

Core Qualities
― AI時代において求めるエンジニアの資質について教えてください
Harsh:
PayPayでは既にAIファーストの文化があります。でもそれは、「AIがエンジニアの代わりになる」という意味ではありません。むしろ逆です。AIを本格的に業務に取り入れて以降、私たちはキャリアパスのフレームワーク自体も見直しました。AIを各職種にどう活かすか、その前提を明確にしたんです。AIはエンジニアの能力を置き換えるのではなく、拡張するもの。生産性を高め、より良いプロダクトをより速く、より賢く作れるようにしてくれるツールです。
だからこそ、AIの時代になっても基礎的なエンジニアリング知識は絶対に欠かせません。
システムがどう動くのか、どう設計すればスケーラブルになるのか、信頼性をどう担保するのか。その原理原則を理解していることが重要です。AIはコードを生成したり、デバッグを手伝ったりできます。でも、その結果が本当に正しいのか、最適なのかを判断するのはエンジニア自身です。技術的判断力とオーナーシップこそが、PayPayのエンジニアを定義する要素です。
Ayush:
まったく同感です。私が強く感じているのは、「エンジニアの判断力」はこれからも変わらず最も重要だということです。システムを設計するとき、A・B・Cといくつもの選択肢があったとします。AIはそれらをすべて提示できるかもしれません。でも、「この状況で最も適しているのはどれか」を決めるのは、AIではなくエンジニアです。
AIは責任を取ってはくれません。責任を持つのは、常に人間です。ツールをどこまで信頼し、どこで立ち止まるかを判断できる力、これが強いエンジニアを見分けるポイントだと思います。
AIの提案を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考え、検証し、批判的に見直す力が求められます。それが、PayPayのエンジニアリングの品質を支える土台なんです。このレビュー思考こそ、どんな時代にも失われてはいけないものだと思います。
Shu:
技術革新は常に私たちの働き方を変えてきました。電卓が登場し、次はインターネット、そしてスマートフォンといった流れでどの時代も、技術は働き方を変えてきました。でも、「なぜ働くのか」「どんな人を評価するのか」という価値観は変わっていません。
私たちが求めるのは、好奇心と適応力を持つ人です。新しい技術を学び、トレンドの変化をキャッチアップしながらも、ユーザーにとって意味のある価値を届け続けられる人。プロダクトもユーザーの期待も絶えず変化します。もし学ぶことをやめたら、すぐに取り残されてしまいます。
だから、問題を解くことを楽しみ、オーナーシップを持ち、「どうすればもっと良くできるか」を常に考える人を歓迎します。それはプレッシャーではなく、成長を楽しむ姿勢です。革新と責任、そして改善を楽しむ心、それが、AIの時代になっても変わらない、PayPayのエンジニアに共通する資質です。
Harsh:
AIは確かに強力なツールです。でも本当のイノベーションは、批判的に考え、目的を持って作り上げる人間から生まれます。それこそがPayPayエンジニアを定義するものだと思います。

PayPay Indiaは単なる開発拠点ではありません。ここは、エンジニアが大規模な責任を持ち、フィンテックの未来を形づくる場所です。
“挑戦と革新を通じて、私たちはFinanceの未来をともに創っていく“
グローバルスケールで挑戦し、オーナーシップを持って成長したいエンジニアにとって、PayPay Indiaは理想的な舞台です。
