大規模プロジェクトの舞台裏に迫る「Project Story」シリーズ。今回は、PayPayが挑む国際展開の舞台裏を追います。PayPayの国際展開は、未だ定義されていない領域への挑戦であり、日本と同様の利便性を海外でも実現するという目標を掲げています。その第一歩として、2025年9月に「海外支払いモード」がリリースされ、ユーザーが韓国で「PayPay」決済が利用できるようになりました。単なる海外進出ではなく、法律、金融、通信、UXなど、国境を越えるあらゆる制約を再構築する壮大な試み。PayPayとして前例のないこの仕組みの実現を推進した、金融戦略本部 国際チームの4名に、直面した課題、そして何を創造したのか、そのリアルなストーリーを聞きました。

菅野 亮
金融事業統括本部 金融戦略本部 金融戦略部 国際チーム リーダー
2007年にソフトバンクへ入社。ネットワーク運用、投資先支援を経て2023年にPayPayへ。現在は国際事業を統括し、海外展開の構想と推進をリード。常に「動かしながら整える」を信条に、前例のないプロジェクトを現実へと変革中。

田中 康志
金融事業統括本部 金融戦略本部 金融戦略部 国際チーム
システム会社での開発経験を経て2014年ソフトバンクへ入社。通信・精算システム設計を担当後、2024年にPayPayへ転籍。加盟店向けの仕組みづくりを経て、アウトバウンドサービスの要件定義や精算設計を担い、セキュリティとUXを両立する仕組みづくりに挑戦中。「技術で世界を前進させる」が信条。

小椎尾 優花
金融事業統括本部 金融戦略本部 金融戦略部 国際チーム
2015年にスタートトゥデイ(現ZOZO)入社。台湾での法人営業経験を経て2022年PayPayへ入社。現在は国際チームで契約・規約対応を担当。リーガルの専門家ではない立場から、営業経験を生かして国際案件を推進。「未知の領域を学びながら動かす」が原動力。

Celina Yoojin
金融事業統括本部 金融戦略本部 金融戦略部 国際チーム
シンガポール・韓国・日本で金融とマーケティングを経験し、2022年にPayPayへ入社。今回のプロジェクトでは、プロモーション部分や観光公社とのMOU締結を主導。文化・言語の壁を越え日本発のサービスを世界に広げる使命を胸に、グローバル戦略を推進中。
挑戦のはじまり、常識を動かす構想
菅野:
PayPayが海外展開に踏み出した背景には明確な目的がありました。日本で培ったキャッシュレス体験を、国や文化を越えて広げること。それは”Fun to Pay”という理念を、世界共通の体験に進化させる取り組みです。私たち国際チームの従来のミッションは、海外ウォレットを日本の加盟店に接続し、日本中どこにいても「PayPay」で支払いができる世界をつくることです。AlipayやKakao Payなど、海外のキャッシュレス決済サービスが日本のPayPay加盟店で使える仕組みを日常的に運用しています。
しかし今回挑んだのは、その逆の発想でした。日本のユーザーが、普段と同じPayPayアプリを使って海外のQR加盟店で支払える仕組みをつくる。いわば、国内のUXをそのまま海外に持ち出すという新しい試みです。従来の越境決済とは異なり、日本側で保持するユーザー情報を国外に移転せずに決済を成立させる必要があり、為替・通信環境、データフローの差異を吸収するプロダクト設計が求められました。こうした要件に対応するため、国際チームでは、ユーザーIDを用いない決済フローの構築や、海外加盟店でも国内と同じ操作ができる利用導線の設計など、これまでにないアプローチを重ねました。その結果、ユーザーは「韓国でもチャージ可能」「円換算の料金表示」「即時のポイント確認」といった国内と同水準の体験を、海外でもそのまま実現できるようになりました。単に韓国でPayPayが使えるようになっただけではなく、国境をまたいでも同一のUXがシームレスにつながるという点に、このプロジェクトの価値があります。私はプロジェクトリードを担い、完璧に整えるよりもまず動かすことを重視しました。リスクを可視化し、全員で共有しながら、スピードを最優先にプロジェクトを進めていきました。

田中:
これまで加盟店向けの仕組み作りを担当してきました。今回はユーザー体験を世界仕様に再構築する。これまでにないスケールへの挑戦でした。
小椎尾:
私は営業出身で、リーガルの専門家ではありません。国際チームへの異動後にこの案件の契約・規約対応を任され、未知の領域に飛び込みました。わからないからこそ柔軟に動けた部分も多く、自分の経験を国際案件に変換する面白さがありました。
Yoojin:
私は以前IR部やアライアンス部門に所属しておりましたが、最初の展開国が韓国だと聞き、母国語を活かして挑戦できると感じたのが参画したきっかけです。文化も制度も異なる場所で、どんな交渉が生まれるのかに強い関心がありました。
見えない壁を越える ― 技術と制度の再定義
菅野:
最初に直面したのは、「個人情報の域外移転禁止」という大きな課題でした。ユーザー情報を海外に出さずに決済を成立させるため、システム設計の根幹を見直す必要がありました。リードとして決断したのは、リスクを恐れて立ち止まるのではなく、制御できる形で受け止めるという方針です。議論を尽くしながらも、誰もが案件を動かす方向で考えるように意識を揃えていきました。
田中:
今回のシステムは、海外のQR加盟店でも日本と同じ操作で支払えるよう、ユーザースキャン方式(MPM)とストアスキャン方式(CPM)の両方式に対応しました。為替や通信環境の違い、決済タイミングのラグを吸収する設計が求められました。目指したのは、国や環境に左右されない安心して払える体験です。
最初は「技術的に無理では」と言われましたが、構造を分解すれば道筋は見えるはずだと考えました。アーキテクチャを細分化し、情報の流れを一から設計し直した結果、ユーザーIDさえ使わない新しい決済フローにたどり着きました。同時に、国を跨いだ決済ではセキュリティに妥協はできません。通信の暗号化、権限管理、異常検知まで、すべてを「想定外を前提に」設計しました。スピードと安全性の両立が私たちのテーマでした。

菅野:
もう一つの壁は「国判定」です。何をベースにして判定させるのか、一つの定義を間違えれば、金融リスクにもUXにも影響します。議論を重ね、リスクと利便性の最適点を探りました。今回、海外でも「PayPay」を利用できるという事実を形にできたことに大きな意味があると思っています。ここで得た知見を、次の展開に確実につなげていきます。
小椎尾:
契約や規約の文言ひとつにも、国際案件ならではの難しさがありました。資金決済法観点、個人情報保護法観点(データ越境)、外為法観点などある中、日本のルールを遵守しつつ、現地の業法等のルールも意識する必要があり、要件が複雑化する。でも、だからこそ「どうすれば実現できるか」を探すのが自分の役割だと思いました。国際契約では、一文の表現で責任範囲が変わります。通訳を交え、海外企業の法務担当と一文ずつ合意点を探しました。正解のない交渉の中で、言葉と信頼を積み上げる仕事でした。その責任を感じながらも、これまでの営業で培った調整力をフルに使いました。
田中:
また、海外パートナーとの交渉を自分たちで動かしたことは忘れられません。Alipay+側の仕様を理解した上で、「この情報は提供せずに運用できる」と自ら提案し、相手のオペレーションを動かしました。グローバル企業を相手にしても、私たちは受け身ではなく、ルールを共に作る立場でした。現場では、リスクを回避するだけでは前に進めません。スピードを止めずに安全性を保つ。この張り詰めたバランスの中で、毎日プロダクト開発を進めていきました。
菅野:
確かに、このプロジェクトで感じたチームの強さは、誰も正解を知らないことを恐れない点です。専門も立場も関係なく、全員が自分の判断で動いていく。その一体感が、未知の壁を越える原動力でした。
現地での実感 ― 革新が形になる瞬間
Yoojin:
現地でのプロモーションは、最初の想定から大きく形を変えました。当初は人気店舗とのキャンペーンを個別に展開するイメージでしたが、Alipay+と一体となって進めるスキーム上、単独では動かせない部分も多くありました。だからこそ、限られたリソースをどう組み合わせれば成果を最大化できるか、前向きに「打ち手を探す」モードに切り替えました。
そこで、韓国観光公社とMOUを結び、現地リソースを活用する戦略に転換。空港、鉄道や観光ブースでのイベントなど、現地のネットワークを借りながら、韓国に到着したユーザーが自然と「PayPay」が韓国でも使えることを認知できる導線を作りました。交渉では、文化や価値観の違いを痛感しました。意思決定の速さ、商談の進め方、言葉のニュアンス、どれも日本とは違う。現地パートナーとの交渉の場では、立場も文化も違う人たちが同じ目的を見つけていく過程がありました。けれど、相手を変えるより、まず自分が理解することが大切だと思いました。そこから本当の協働が始まったと感じます。

菅野:
Yoojinさんの判断は、プロジェクトの転換点でした。制約を障害ではなく、発想を広げる材料に変えた。その姿勢が現地の信頼につながったと思います。
Yoojin:
現地ではすでにWOWPASSというチャージ型カードがあり、ユーザーにも広く浸透していました。その利便性を超えるには、「PayPayならではの強み」を明確に打ち出す必要がありました。「チャージ不要」「いつものアプリで即決済」。このシンプルさを伝えることに徹しました。
出張で韓国を訪れ、街中で初めてPayPayロゴ入りのマークを見た瞬間、胸が熱くなりました。あの赤いPが韓国の街に並んでいる。日本発の仕組みが世界で息をしている、そう実感しました。リリース後、SNSでも「韓国でPayPayが使えた!」という投稿が増えました。旅行者の喜びだけでなく、現地の店舗スタッフからも「決済がスムーズになった」「日本人のお客さんが増えた」といった声が届きました。数字以上に、体験の変化が見えたことが、まずは何よりの成果だと感じています。また、実際に韓国の店舗で決済が完了したとき、利用者が「クレジットカードより簡単で安心」と話していたのが印象的でした。現地通貨を円換算で表示し、付与されるポイントもその場で確認できる。旅行中の支払いのストレスをなくすことが、まさにPayPayらしい価値だと思います。
完璧より動かすことを重視するチームカルチャー
菅野:
国際チームでは、「完璧を待たずにまず動かす」姿勢を重視しています。毎日のデイリーハドルで課題を共有し、素早く解決に取り組む文化が根づいています。多様なバックグラウンドを持つメンバーが、共通の目的のもとに意思決定を加速させています。

田中:
今回のプロジェクトでは、関係者の数も課題の種類も膨大でした。それでも意思決定の速さを保てたのは、議論のための議論をしないというチームカルチャーが根づいていたからです。常に、進めるための会話しかしていませんでした。
小椎尾:
リーガルの専門家ではない私にとって、初めての国際契約交渉は本当に緊張の連続でした。相手国の法務担当と通訳を交えながら、一文ずつ擦り合わせをしていく。言葉の裏にある解釈の違いを埋める難しさを痛感しました。けれど、怖さよりも「ここで自分が止めてはいけない」という気持ちが勝っていました。営業出身としての交渉力を武器に、未知の分野でも前に進める推進力を得られたと思います。
Yoojin:
国籍も経歴も違うメンバーが集まっていますが、議論の軸はいつも「ユーザーのためになるか」。スピードと多様性が交わるこの環境こそ、PayPayらしさだと感じています。
境界のない金融体験実現に向けたそれぞれの挑戦
菅野:
韓国での学びをもとに、今後はアジアを起点により広い市場に挑みます。キャッシュレス決済の経済圏は年々拡大しており、PayPayが築いたUXを世界標準にしていくフェーズです。QRコードが世界共通の言語になり得るのか。その問いに答えを出すのが、私たちの次の仕事です。
田中:
国ごとに異なる決済フレームへの対応など、まだ課題は山ほどあります。ですが、難しいからこそやる意味がある。常識を一歩先に進める設計を続けたいです。
小椎尾:
国際事業では、法規制や制度が常に変化します。だからこそ、変化を後追いする側ではなく、ルールを作る側に立ちたい。それが次の目標です。
Yoojin:
プロモーションも、国によって正解が違います。文化や言葉を超えて、PayPayらしさを世界に根づかせていく。その過程こそが挑戦です。

菅野:
この挑戦を通じて、社内にも確かな変化が生まれました。前例のない領域に挑むときの意思決定スピードが上がり、チーム同士の連携もこれまで以上に強くなった。「不可能を動かせた」という経験が、次の挑戦を押し出す力になっていると感じます。
革新は日常の中にある
菅野:
PayPayの国際事業では、制度も文化も言語も違う中で、常に海外企業等世界のプレイヤーたちと同じテーブルで議論し、合意形成しています。常に新しい金融インフラの形を模索しています。私たちが向き合っているのは、常に変化そのものです。議論も設計も交渉も、すべては「前例を動かす」ための行為です。動かした分だけ、新しい仕組みが社会に刻まれていく。国際チームが生み出したのは、単なる海外サービスではなく、「金融の新しい標準」です。PayPayの国際事業は、まさに革新の現場。今日も現場では、次の世界の当たり前が形になろうとしています。それが日常にあるのが、このチームの面白さです。
これから加わるメンバーへ
菅野:
PayPayの金融戦略本部には、考えたことを実装まで持っていけるスピードがあります。国際経験がなくても問題ありません。挑戦の意志さえあれば、誰でも革新の中心に立てます。
田中:
PayPayのプロダクトは、常に実験と進化の中にあります。世界を舞台に設計を磨く環境は最高の刺激です。
小椎尾:
専門知識に縛られず、自分の経験を国際事業のピースに変えられる場所です。「どうすればできるか」を考え続けたい方に、これ以上の環境はありません。
Yoojin:
国や文化を越えてブランドを育てる。そんな経験ができる場所は多くありません。世界に挑む意志を持つ人にこそ、このチームで一緒に走ってほしいです。

※社員の所属等は取材当時のものです。
